親方 気がつけばPUNK DRUNKERS

親方 気がつけばPUNK DRUNKERS

その独創的なデザインで国内外問わず多くのファンを獲得している「PUNK DRUNKERS(パンクドランカーズ)」。

アパレルに始まり、今ではさまざまなグッズやソフビ制作など多岐にわたる展開をしているこのブランドを支えているのが、設立者でありデザイナーの「親方」だ。

ある日の夕方、千駄ヶ谷の住宅地にあるヘッドショップに隣接したアトリエに訪れると、親方は挨拶するやいなや缶ビールをそっと差し出してくれた。

そしていい意味でまったりとした雰囲気の中、インタビューが始まった。

 

親方 気がつけばPUNK DRUNKERSに

意外な前職

「ブランド自体は1998年からスタートしたのでもう23年目に入りました。最初はこんなに続くと思ってなかったんですけどね」

いきなりそう言われると、なぜブランド作りを始めることになったのか気になるところだ。

「元々は歯科技工士をやってたんです。銀歯とか入れ歯とか作っていました。高校卒業して短大に進んで、特に何をしたいっていうのもなくて、いい歳こいてどうしようかなって感じだったんです(笑)。で、親も心配してくれて、『何か手に職をつけたほうがいいんじゃないか』ってことで、専門学校に行かせてくれて」

歯科技工士を目指した理由については自分でもよく分からないというが、専門学校を卒業し、国家資格を取り、歯科技工士になった。

「小さな家族経営のラボに就職したんですけど、1年半くらいで社長が病気になってしまって会社が成り立たないようになって。それでアクセサリーを作り始めたんです。リングとかピアスとかね。銀歯を作るのと工程が一緒なんですよ。シリコンで型とって、ワックス流し込んでって」

時はまだ90年代半ば。世の中にネットショップなどなかった時代の話だ。

「原宿とか表参道あたりに勝手に露店を出したりして、ちょっと怒られたりもしながらでしたけど、なかなか売れたんです。人気のシルバーアクセのブランドのデザインをちょっぴり参考にさせてもらったりしてね(笑)」

親方 気がつけばPUNK DRUNKERSに

もともとファッションが好きだったこともあり、性にも合っていたのだろう。

青年時代の親方はアクセサリー作りに没頭した。

「ちょうどその頃、デザインフェスタギャラリー主催の、誰でもお店出せるっていうイベントがお台場であって、仲間5、6人で出店したんです。僕はアクセサリー担当でね。でも、まわりのブース見てたら、Tシャツばっかり売れてたんですよね。だからその次回のイベントにはTシャツ作って持ってったんです。アメ横でヘインズの3枚パック買って、自分たちで手刷りしたTシャツをね」

その策はばっちりハマり、100枚くらい用意したTシャツの処女作は、わずか1日のイベントで完売したという。

「もうそのときには『PUNK DRUNKERS』っていう名前つけてました。みんなパンクが好きで、さらに酒飲みばかりだったので、パンチドランカーをもじってPUNK DRUNKERSって」

 

親方 気がつけばPUNK DRUNKERSに

ブランドとしてのスタート

こうして気がつくとTシャツブランドとして出発していた。

とはいえ、まだまだ仲間うちで盛り上がっている程度だったのだが、ある日、突然転機が訪れる。

「恵比寿に買い物行ったときに、作ったTシャツ着てたら、恵比寿のブレーンバスターってとこの社長さんが『それどこの?』って話しかけてくれて、そこからトントン拍子に『それうちに卸せない?』っていう展開になったんです」

当時のPUNK DRUNKERSのTシャツは、フロントに漢字で《平常心》や《国技》などと書いてあるものや、あの水戸黄門の歌の歌詞を英語でプリントしたものなど、変り種が多かった。それが物珍しかったこともプロの目についた要因だろう。

そして、プロの目が確かだったことはすぐに実証される。

「これがまた、すごい売れたんですよ(笑)。最初は他にバイトもしてたんですけど、気がついたら1年くらいでTシャツ作るのが本業になってました。その頃も自分たちでプリント手刷りしてましたし、流石に忙しかったから、バイトなんかしてる場合じゃないって」

親方 気がつけばPUNK DRUNKERSに

ブランドのテーマは当初から変わっていない。

「UNCOOL IS COOL」―ダサいはカッコイイ―

面白要素を入れすぎて、ときには取引先の社長に「洋服なめてるのか?」などと批難されたりもしたというが、そこからブレたことは一度もない。

その背景にはパンク的な反骨精神があるという。

「千葉県生まれなのに小学校の頃からずっと阪神ファンなんですよ。まわりは巨人ファンばっかりだったけど、それがなんか嫌で。その頃からすでに反体制的だったのかもしれないですね(笑)」

 

親方 気がつけばPUNK DRUNKERSに

すべては人との出会いから

そして、気がつけばデザイナーが仕事になっていた。

「人との出会いには恵まれてると思います。僕はパンクも好きだし、格闘技とかお笑いとかも好きでしたし、そういう方々との出会いに育ててもらったと思っています」

今ではさまざまなジャンルとコラボレーションを行っているPUNK DRUNKERSだが、最初にコラボしたのはシュートボクシングだった。

「渋谷のパルコクアトロにブレーンバスターのショップがあったんですけど、その隣にフィットネス系のお店があって、そこの人が紹介してくれたんです。『格闘技好きなんだったらシュートボクシングのグッズとかデザインしてみない?』って。その後は刃牙のモデルになった平直之さんっていう格闘家のグッズも作らせてもらいました」

もちろんこんな他力本願ばかりではない。

ときには自らスケッチブックを片手に高円寺などのライブハウスに出向き、自身のデザインを好きなバンドに売り込んだこともあった。

「そのおかげで髑髏首とかインディアンハイとかともコラボさせてもらいました。当時のハードコアシーンが好きだったし、やっぱり好きなことを仕事にしたくってね」

Tシャツ作りから初まったブランドは、コラボ制作だけにとどまらず、オリジナルアイテムも増やしていき、ついには自分自身の店、鷹の爪HEAD SHOPをオープンするところまでたどりついた。

導いてくれたのは、今までの縁と、自分の好きなものだ。

「アパレルに関しては本当に素人でした。パンツ作ってみたら細すぎて脚が入らないとか、そんな初歩的な失敗したりして(笑)。そんな僕にいろいろ親切に教えてくれたまわりの人たちのおかげで今があるんですよ」

 

親方 気がつけばPUNK DRUNKERSに
親方 気がつけばPUNK DRUNKERSに

“あいつ”の誕生

目のまわりに黒い隈取りのようなメイクをした、一見すると不気味な、しかしながら忘れられないインパクトがあるキャラクター。

それがブランドのアイコン的存在になっている“あいつ”だ。

デザインテーマに合わせて自由自在に変化するこのキャラクターはどのようにして生まれたのだろうか。

「ブランド初めて3、4年くらい経った頃、ノートに落書きしてたのは覚えてるんですよね。もちろんその頃はキャラクターにしようなんてまったく考えてなかったんですけど、見返したときに、なぜか分からないんだけど気になってね。とりあえずTシャツを作ってみたんです。耳を塞いでいる“あいつ”のイラストに《HARDCORE》って書いてあるやつでした。最初はあまりピンとこなかったんだけど、何枚か作ってるうちに、スタッフの中でもじわじわきたんですよね」

気がついたらブランドの顔になっていた。

2003年頃に生まれた“あいつ”はどんどん人気になり、その勢いは今でも増すばかりだ。

最近ではゴジラやみかん星人、そしてFR2とのコラボアイテムにも登場していた。

「“あいつ”は万能なんです。人種も性別も年齢も超えられる。ヒーローにもなれるし悪役にもなれる。可愛がってよかったなって本当に思ってます」

ちなみにこの名前を考案したのは親方の奥様らしいのだが、それまで便宜的に“目くぼみ男”と呼んでいたときよりも、名前をつけてから一気に愛着が湧いてきたと言う。

本名の親美という名前に因んだ“親方”というペンネームと同じく、親しみのある名前の重要性を感じるエピソードだ。

 

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もっと幅を広げていきたい

気がつけば、我々はすでに2本目の缶ビールに手を伸ばしていた。

“あいつ”のソフビに囲まれたアトリエのど真ん中で行われたインタビューもすでに終盤に差し掛かっていた。

「2020年は本格的に海外進出していく予定があったんですけど、大きく狂っちゃったんです。アメリカやアジアでもだんだん認知されてきた実感もあったし、初めてヨーロッパにも行くことが決まっていたんですけどね」

とはいえ、もちろんその目標が消えた訳ではない。

アパレルというジャンルだけにとどまらないブランドの特性上、海外進出に大きく可能性を感じるのは私だけではないだろう。

「海外だけではなく、とにかく幅を広げていきたいです。うちのお客さんの年齢層は幅広いけど、若い子の層をもっと盛り上げたいですしね。最近はテレビ番組のタイトルデザインを頼まれたり、JAMESON(ジェムソン)っていうウイスキーのラベルをデザインしたり、イレギュラーな仕事も増えてきました。やっぱりいろんな仕事ができることが楽しいので、自分の幅もブランドの幅も広げていきたいです」

具体的にはどう幅を広げていきたいのか?

最後にそう尋ねると、親方は持っていた缶ビールをグイッと飲み干し、こう笑った。

「男の子の好きなものを全部やりたいよね。それを死ぬまで続けていきたいなぁ」

親方 気がつけばPUNK DRUNKERSに

親方
Instagram:@oyakatapunk

PUNK DRUNKERS
Instagram:@punkdrunkers89/
Twitter:@PUNKDRUNKERSPDS
https://www.punk-d.com/

鷹の爪HEAD SHOP
東京都渋谷区千駄ヶ谷1-19-12-100
TEL:03-3478-4844
https://www.steak-ltd.com/

 

Text & Photographs by Tomoyuki Omatsu(Still Tokyo/Btree)
Collaborative Activity & Coordinated by Hiromasa Ishikawa(Still Tokyo/GIGGLYROY)

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